COLUMN

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Interview06 サンゲツヴォーヌ ☓ インテリアデザイナー(UDS株式会社) 菓子麻奈美さん

企画から運営まで見すえた
インテリアデザイン(第2話)

BUNKA HOSTEL TOKYO
(ブンカホステル トーキョー)

INTERVIEW

牧尾


『BUNKA HOSTEL TOKYO』についてお聞きします。こちらは、浅草・浅草寺からほど近い築34年の建物をリノベーション(一部で用途変更)してホステルにするというプロジェクトでした。

菓子

私たちはまず、宿泊施設として大切なことは「清潔感」だと考えて、強度と汚れにくさに優れた国産タイルを選定して、このホステルのキーマテリアルにしました。
タイルは汚れたらすぐに綺麗にできるし、強度もあります。いろいろなタイルメーカーさんとやりとりしながら、コストパフォーマンスや耐久性も検討していって、結果的にいきついたのは国産タイルでした。個人的にも嬉しかったですね。
もうひとつ、デザイン的な側面もあります。ブランディングで高橋理子さんにも入ってもらっていて、たのしい感じがあったほうがいいよねという話がありました。装飾などを作りこんでいくのに比べ、タイルをつかったグラフィックでのデザインであればコストも抑えられるし、総合的にブランディングに活かすことができました。

牧尾

メインターゲットは感度の高い訪日外国人だそうですね。

菓子

そうなんです。ただ安く泊まりたい、といった方ではなくて、宿泊に使うお金はなるべく抑えるけれど、それ以外の体験にはしっかりとお金を使う、といった感度の高い層。
日本らしさ、がテーマではありますが、海外向けに紹介されている日本らしさだけではなくて、私たちが普段日本で暮らしていて「いいな」と感じているものも丁寧に伝えたかった。

Interview06 サンゲツヴォーヌ ☓ インテリアデザイナー(UDS株式会社) 菓子麻奈美さん
BUNKA HOSTEL TOKYO Photo: Shiori Kawamoto
BUNKA HOSTEL TOKYO
Photo: Shiori Kawamoto

牧尾

1階のレセプションの隣には居酒屋があり、宿泊客以外にも開かれています。

菓子

自由に出入りできるように、すべて引き戸で、天気がよければオープンにしておけます。商店街に面していて、街の方も観光客も行き交う場所です。
おなじ文化背景の日本人同士だと、たとえば銭湯でおなじ湯につかりながら、みたいなイメージって共有しやすいですよね。でも海外の方が相手の場合には、より丁寧に伝えないといけません。お酒が飲める場所だとわかるように、ちょうちんにもわざわざ分かりやすく「SAKE」と書いてあります(笑)。そうやって、ちょっとずつ変換させながらつくったものを集積させている空間です。

牧尾

企画や運営から携わられたことで、デザインにも変化がありましたか?

菓子

そうですね、UDSには企画、設計、運営のそれぞれに部隊があるんですが、このホステルでは最初から運営チームも一緒になって、それぞれの立場で意見を出しあい、運営のしやすさの面も考慮して、設計に反映させていきました。メニューはもちろん、そもそも居酒屋にするかどうかといったところから検討しています。
日本文化を発信していくイベントでは、書道などもやっています。最近では、初の美容系のイベントもありました。
日本の美容師さんが髪を切ってくれるんですが、日本酒を飲みながら髪をカットしてもらい、音楽の生演奏も聴ける、という3本立てで。運営していくなかで、長期滞在者からは、髪を切ることについても相談をよくうけていたんです。床がタイルなので、カットの後もすぐに綺麗にできました(笑)。

BUNKA HOSTEL TOKYO 居酒屋ブンカ Photo: Shiori Kawamoto
BUNKA HOSTEL TOKYO 居酒屋ブンカ
Photo: Shiori Kawamoto

牧尾

宿泊スペースで工夫されたことをお聞かせいただけますか?

菓子

2段ベッドの部分も、こだわってつくりました。一般的なホステルでは同じ2段ベッドを広いワンフロアに並べていることが多いですが、ここでは上の段を90度回転させて、下の段とは違う場所から入るようにしています。夜間、ほかの宿泊客にあまり気兼ねせずにベッドへ出入りできるようしました。ミニマムの空間ですが、そこでの最大限の快適さを追求しています。自分自身も海外の建築をみてまわるときにユースホステルに泊まった体験があり、そういった経験からの工夫ですね。

BUNKA HOSTEL TOKYO Photo: Shiori Kawamoto
BUNKA HOSTEL TOKYO
Photo: Shiori Kawamoto
菓子麻奈美さん

PROFILE

インテリアデザイナー(UDS株式会社)菓子麻奈美さん

1983年生まれ、東京都出身。東京芸術大学大学院美術研究科建築専攻修了。長谷川逸子・建築計画工房にて建築設計の仕事に携わり、中国無錫の大規模開発プロジェクトの高級ヴィラ、商業施設、ランドスケープなどを手がける。2011年より、株式会社都市デザインシステム(現UDS株式会社)にて、ホテル・オフィス・店舗のインテリアや、家具のデザイン、ブランディング、VI計画と企画から設計までさまざまな角度からプロジェクトに携っている。
(プロフィールは記事掲載時(2018年11月)のものです)

聞き手

牧尾晴喜

株式会社フレーズクレーズ 代表
一級建築士、博士(工学)
メルボルン工科大学大学院修了、メルボルン大学にて客員研究員
大阪市立大学非常勤講師、摂南大学非常勤講師
公益社団法人 日本インテリアデザイナー協会理事