COLUMN

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Interview01 サンゲツヴォーヌ×建築家・空間デザイナー 鬼木孝一郎さん

魅力的な商業店舗のつくり方(第3話)

『ステュディオス』での
魅力ある店舗づくり

INTERVIEW

牧尾

つづいて、セレクトショップ『STUDIOUS』(ステュディオス)の複合店舗のデザインについてお聞きします。これまでも原宿などで系列店舗のデザインを手がけておられますが、今回(2017年8月)オープンしたのは大阪のなんばパークス店ですね。デザイン面で、これまでの店舗と揃えているところ、変えているところがあると思いますが、いかがでしょうか?

鬼木

まず揃えている部分についてですが、STUDIOUS自体の特徴として、服の軽さや自由さの雰囲気を大事にしています。店舗のイメージとしても「白」で、それが服のイメージで染められるくらいの感じですね(笑)。カラーのテーマとしては、完全に白ではないですが、これまでもモノトーンで統一しています。今回のなんばパークス店も基本的には白で、軽さを大切にしているんです。

Interview01 サンゲツヴォーヌ×建築家・空間デザイナー 鬼木孝一郎さん
セレクトショップ『STUDIOUS』(ステュディオス)の複合店舗のデザイン 写真:太田拓実
写真:太田拓実
セレクトショップ『STUDIOUS』(ステュディオス)の複合店舗のデザイン 写真:太田拓実
写真:太田拓実
『STUDIOUS』(ステュディオス)のメンズとウィメンズ写真:太田拓実
写真:太田拓実

牧尾

では、これまでの店舗と違うところは?

鬼木

今回の店舗の特殊条件としては、他よりも大きい店舗で、メンズとウィメンズが複合していることです。STUDIOUSでは、通常は複合店舗はあまりないんですが、規模が広いと発生してくるんです。
メンズとウィメンズの間の壁をどのようにつくるかで、メンズとウィメンズの関係性が変わってきます。当初の要望としては、客層もずいぶんと違うからしっかり分けたいということでした。2つの空間がつながりすぎると、どちらのお客さんも来づらいかもしれない、と(笑)。
ですが、壁にしてしまうと圧迫感があるし、せっかく隣同士にあるという面白さも出せない。設計を進めながら、違う素材で軽さを表現したいと考えました。そしてファブリックの構造にたどりついたんです。
どちらも同じくらい入りやすいように、奥行き方向に、帯を編み込んだスクリーンを設置しました。これまでのSTUDIOUSでもしていなかった試みです。

牧尾

木やコンクリート、鉄、ガラスといった一般的な建築材料よりも柔らかい素材ですし、こういうところに布を使うのって意外な感じがします。

鬼木

布は扱いが難しいところもありますが、アパレル店舗ということもあり、ファブリックの薄さ・軽さをなるべく表現したかったんです。服が自由に飛び回っているイメージですね。
また、たしかに、他の建築材料に比べると、布はすぐにダレてきてしまうので、施工上の工夫で構造とうまくリンクするように処理しています。

『STUDIOUS』(ステュディオス)の店内写真  写真:太田拓実
写真:太田拓実

牧尾

ところで、ちょっと個人的な興味でお尋ねしたいんですが、デザインを手がけられたお店に一般客としていかれることとかありますか?なんとなく気になって、みたいな(笑)。

鬼木

ああ、ありますよ(笑)。近くに行ったときとか、たまに行きます。
でもまあ、単に気になるというよりは、どちらかと言えばデザインの仕事の範囲でみていますね。たとえば、お客さまが実際にその空間に入っているところだとか、日々の使い方でどのように変化していくかも見てみたいんです。そこで気づいたことが、あとでクライアントのフォローにつながることもありますしね。

牧尾

鬼木さんにとって、デザインのお仕事の醍醐味とは?

鬼木

自分がつくったものを通じて、それに触れたひとが新しい価値観や豊かさを感じてくれたら最高ですね。ぼく自身、ほかのひとのデザインにふれて、そういう価値観や豊かさを感じることがあります。ものづくり自体が好きなので、施工途中の現場自体が楽しかったりもしますね(笑)。

牧尾

今後のお仕事で手がけたいことなど、お聞かせいただけますか。

鬼木

独立してからこれまで、以前に在籍していたnendoからの流れもあって商業系の案件が多く、住宅のデザインはまだあまりやっていません。住宅って、さっきの話にあった生活の豊かさに直結する空間ですし、新しい価値観は個人の住宅にも現れてくるものです。そういう価値観を共有できるひとの住空間を一緒につくりあげていきたいですね。

『STUDIOUS』(ステュディオス)の店内写真  写真:太田拓実
写真:太田拓実
『STUDIOUS』(ステュディオス)の店内写真  写真:太田拓実
写真:太田拓実
鬼木孝一郎さん

PROFILE

建築家・空間デザイナー鬼木孝一郎さん

1977年東京都生まれ。
早稲田大学大学院卒業後、株式会社日建設計勤務。
その後、有限会社nendo入社。10年間に渡りチーフディレクターとして国内外の空間デザインを手がける。
2015年、鬼木デザインスタジオ設立。
2017年、株式会社鬼木デザインスタジオに組織変更。
建築、インテリア、展示会の空間デザインを中心に多方面にて活動。
American Architecture Prize、Singapore interior design award、日本インテリアデザイナー協会(JID)賞など受賞多数
(プロフィールは記事掲載時(2017年11月)のものです)

聞き手

牧尾晴喜

株式会社フレーズクレーズ 代表
一級建築士、博士(工学)
メルボルン工科大学大学院修了、メルボルン大学にて客員研究員
大阪市立大学非常勤講師、摂南大学非常勤講師
公益社団法人 日本インテリアデザイナー協会理事