COLUMN

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Interview03 サンゲツヴォーヌ×建築家 田根剛さん

古来と未来をつなぐデザイン(第3話)

世界でデザインをしながら気づくこと

INTERVIEW

牧尾

銀座にある複合施設GINZA SIX内の『クレ・ド・ポー ボーテ』なども手がけておられます。先日お店に行ったら、一般客だけでなくデザイン関係者もよく訪れているようだと店員さんからうかがいました。商品だけでなく、空間デザインのほうもよく見ているのですぐにデザイン関係者だ と分かるようですね(笑)。
化粧品のなかでもハイブランドを表現するとなると、クライアントとはどんなやりとりをして進めるんでしょうか?

田根

最初に「化粧品のなかでもハイブランドを表現するとなると……」といった依頼がありますが、クライアントに対してこちらからどんどんと提案していくこともありますね。たとえばこの『クレ・ド・ポー ボーテ』でも、じつは最初はシャンデリアをつくってほしいという依頼だったんです。インテリアの象徴となる、オブジェのようなシャンデリアを頼まれました。シャンデリアを作るのってあんまり向いてないんじゃないかなあ……、なんて思いながらよくよく話をきくと、肌や脳の細胞の話や空間の効果の話になって、それだったらシャンデリアではなくて光の空間をつくって欲しいってことではないか、と。もしかすると勝手な思い込みだったかもしれないんですが(笑)、改めてクライアントと話をして、最終的にそういう方向で進めていくことになったんです。光の天井をつくり、奥にディスプレイ、そして、商品を置く一番大事な台も何かしら同じ表現にしてほしいということになりました。そんな風に、話が変わっていきながらも一緒につくっていけるのは本当におもしろいです。
「コップを作らなきゃいけない」というときに、「そもそもコップが必要なのか」と問いかけ、同時に、それをつくりたいとおもった方々と一緒に想いを共有して掘り下げ、その場所でしかできないことは何だろうかと考え、形にしていく。仕事はそうやってやらせていただいている気がします。

Interview03 サンゲツヴォーヌ×建築家 田根剛さん
複合施設GINZA SIX内の『クレ・ド・ポー ボーテ』
Photo: Taihei Iino
複合施設GINZA SIX内の『クレ・ド・ポー ボーテ』
Photo: Taihei Iino
複合施設GINZA SIX内の『クレ・ド・ポー ボーテ』
Photo: Taihei Iino
複合施設GINZA SIX内の『クレ・ド・ポー ボーテ』
Photo: Taihei Iino

牧尾

建築では、クライアントはもちろん、現場でつくる際にもいろいろなひととのやりとりが発生しますね。田根さんは学生の頃からいままで、北欧、ドイツ、イタリアと、世界中で建築や空間デザインを手がけてこられました。ひとことでは難しいかと思いますが、違いや共通項など、教えていただけますか?

田根

たしかに、ひとことでは難しいんですが、結論からいうと、どこの国でも、いいところもあるし悪いところもあるという意味では一緒だな、と(笑)。
たとえばイタリアだと作業が遅かったり怠慢だったりと感じる瞬間はありますが、ものづくりに対する歴史、文化、プライド、ゆずらない精神といったものが、現場で細かな作業をする職人まで浸透しているんです。日本もすごいけれど、イタリアのものづくりはかなり信頼しています。
フランスなんかでも、ややこしかったり、ぶつくさと文句を言われることがあります(笑)。仕事の進め方として、一日の現場で、仕事をやりきってはいけないんです。9割くらいやって、1割は残しておき、明日はそのやり残したことからスタートする、と。そうすると明日もすこし遅れて、という感じで、最終的にすこし遅れるんです。そういう仕事のやり方でイライラすることがありますが、美意識や街並みに対する全体の統一感や華やかさ、アーティスティックなセンスといった部分ではレベルが高くて素晴らしいな、と。
そういう良し悪しは、どの国の文化やものづくりのやり方にもあるんだな、というのがいまのところ考えていることです。

複合施設GINZA SIX内の『クレ・ド・ポー ボーテ』
Photo: Taihei Iino

牧尾

最後に、田根さんがデザインをしていて感じる醍醐味や嬉しい瞬間について教えてください。

田根

じつはデザインの仕事をしていて、「自分はあんまりデザインすることが好きじゃないのかな」と感じる瞬間もあるんです(笑)。デザインすること自体に喜びを見い出したり、自分のデザインに対して、かっこいいなとか、これはいけるぞ、って感じたりするというよりは、自分が一所懸命に考えて、スタッフやクライアントと話し合いながら実現していくところに嬉しさがあります。それが大きな美術館でもインスタレーションでも、多くのひとの驚きに変わっていったり、そこに立ち会ったひとの記憶につながっていったり。そうやって喜んでいる姿をみて喜んでしまうんですよね。デザインをするというよりは、自分の仕事を通じてひとの何かに触れられるようなことができたらいいなと。建築の仕事にはそれができるのではないか、と信じているんです。

田根剛さん
Photo: Yoshiaki Tsutsui

PROFILE

建築家田根剛さん

1979年東京生まれ。
ATELIER TSUYOSHI TANE ARCHITECTSを設立、フランス・パリを拠点に活動。2006年にエストニア国立博物館の国際設計競技に優勝し、10年の歳月をかけて2016年秋に開館。また2012年の新国立競技場基本構想国際デザイン競技では『古墳スタジアム』がファイナリストに選ばれるなど国際的な注目を集める。
場所の記憶から建築をつくる「Archaeology of the Future」をコンセプトに、現在ヨーロッパと日本を中心に世界各地で多数のプロジェクトが進行中。主な作品に『エストニア国立博物館』(2016年)、『A House for Oiso』(2015年)、『とらやパリ』(2015年)、『LIGHT is TIME 』(2014年)など。フランス文化庁新進建築家賞、フランス国外建築賞グランプリ、ミース・ファン・デル・ローエ欧州賞2017ノミネート、第67回芸術選奨文部科学大臣新人賞など多数受賞。
2012年よりコロンビア大学GSAPPで教鞭をとる。
URL http://at-ta.fr
(プロフィールは記事掲載時(2018年4月)のものです)

聞き手

牧尾晴喜

株式会社フレーズクレーズ 代表
一級建築士、博士(工学)
メルボルン工科大学大学院修了、メルボルン大学にて客員研究員
大阪市立大学非常勤講師、摂南大学非常勤講師
公益社団法人 日本インテリアデザイナー協会理事