COLUMN

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Interview03 サンゲツヴォーヌ×建築家 田根剛さん

古来と未来をつなぐデザイン(第2話)

空間づくりにおけるテキスタイルの可能性

INTERVIEW

牧尾

次は、テキスタイルに関連するお仕事についてお聞きします。

田根

これは自分の勝手な思い込みかもしれないのですが、テキスタイルにはかなり強いというか、縁がある方だと考えています。たとえば、1970年代・80年代に三宅一生さんや川久保玲さんがパリコレに出られたときに実験的で魔法のような布をつくっておられた新井淳一さん。彼がテキスタイルブランドを創設されたときの大きな展覧会の展示構成をさせていただきました。皆川明さんとは、ミナペルホネンの『ミナカケル展』のお仕事もさせてもらいました。そういったお仕事もあって、布にまつわる仕事がなぜか多いんです。

Interview03 サンゲツヴォーヌ×建築家 田根剛さん
テキスタイル
Photo: Keizo Kioku
壁から天井まで布で覆われた空間
Photo: Takumi Ota

牧尾

そうなんですね。今回はサンゲツヴォーヌのインタビューということで、空間づくりにおけるテキスタイルの可能性についても教えていただけますか?

田根

建築は基本的に硬いので、空間を柔らかくするために、プロジェクトでも布、絨毯、カーテンをよく使います。サンゲツの製品もよく使いますよ。

牧尾

ありがとうございます!それは嬉しいことをお聞きしました。

田根

ぼく自身、テキスタイルというのは、人間や身体にとって一番身近な存在だと考えています。人間や身体の環境と外の環境を、その間で包み込む存在です。人間って、生まれてから死ぬまで、布に包まれているんですよね。
あと、空間っていうのは光と音なので、とくに音環境をコントロールするためには、絨毯はすごく有効な素材です。空間を、壁から天井まで布で覆ったこともあります。そういうのは、不思議な柔らかさをもつ布にしかできない表現ですね。

ATELIER TSUYOSHI TANE ARCHITECTSとしての活動
Photo: Takumi Ota

牧尾

約10年間のDGT.(ドレル・ゴットメ・田根/アーキテクツ)としての共同体制を解散され、新たにATELIER TSUYOSHI TANE ARCHITECTSとしての活動を開始されました。仕事に対する考え方など、どのように変わりましたか?

田根

まず何よりも自由を得たのが最大の喜びですね(笑)。3人でやってきたことはとても重要だし、ひとりでは仮に10年前にエストニアのコンペに勝っても実現できなかったですから、時代としても状況としてもそういう縁は大きかったです。
ただ、10年経つと人生でも色々あって、それぞれ独立してやっていくのにいいタイミングだろう、と。
そうして自分ひとりでやり始めると、当然ですが意見や言動など、責任が強くなりましたね。20人、30人といるスタッフも、人生をかけていてくれるわけで、彼らの仕事や人生にかかわる部分をつくっていくわけですから。3人でやっていた時のように、好きなことをやりたいなという部分は変わりませんが、リーダーとしての意識は変わってきたかもしれません。

牧尾

なるほど。では、実際の仕事の進め方についてはどうですか?

田根

3人でやっていたときに比べて、仕事量もスタッフ数も増えています。そういう意味では、やることはこれからまだまだあって、本当に大きなチャレンジが始まったところです。ようやくスタートに立ったところで、2017年は、組織作りからスタッフの教育に専念していました。あまり外にも出ず、コンペもやらず、ひたすらスタッフ教育に専念していたんです。会社なので、労働条件や作業の質についてもひたすらスタッフと議論しました。チームワークを大事にしているやり方なので、今後はそちらを頑張ろうという感じですね。

ATELIER TSUYOSHI TANE ARCHITECTSとしての活動
Photo: Takumi Ota
Photo: Takumi Ota
田根剛さん
Photo: Yoshiaki Tsutsui

PROFILE

建築家田根剛さん

1979年東京生まれ。
ATELIER TSUYOSHI TANE ARCHITECTSを設立、フランス・パリを拠点に活動。2006年にエストニア国立博物館の国際設計競技に優勝し、10年の歳月をかけて2016年秋に開館。また2012年の新国立競技場基本構想国際デザイン競技では『古墳スタジアム』がファイナリストに選ばれるなど国際的な注目を集める。
場所の記憶から建築をつくる「Archaeology of the Future」をコンセプトに、現在ヨーロッパと日本を中心に世界各地で多数のプロジェクトが進行中。主な作品に『エストニア国立博物館』(2016年)、『A House for Oiso』(2015年)、『とらやパリ』(2015年)、『LIGHT is TIME 』(2014年)など。フランス文化庁新進建築家賞、フランス国外建築賞グランプリ、ミース・ファン・デル・ローエ欧州賞2017ノミネート、第67回芸術選奨文部科学大臣新人賞など多数受賞。
2012年よりコロンビア大学GSAPPで教鞭をとる。
URL http://at-ta.fr
(プロフィールは記事掲載時(2018年3月)のものです)

聞き手

牧尾晴喜

株式会社フレーズクレーズ 代表
一級建築士、博士(工学)
メルボルン工科大学大学院修了、メルボルン大学にて客員研究員
大阪市立大学非常勤講師、摂南大学非常勤講師
公益社団法人 日本インテリアデザイナー協会理事