COLUMN

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Interview05 サンゲツヴォーヌ×建築家 成瀬友梨さん×建築家 猪熊純さん

シェアする場のデザイン(第3話)

西武池袋本店 
別館・書籍館パブリックスペース

INTERVIEW

牧尾


西武池袋本店 別館・書籍館パブリックスペースについてお聞かせください。単なる動線となっていた百貨店の共用部に対し、無数の鏡を配置したプランでしたね。

成瀬

じつはかなり慌ただしいスケジュールの案件で、提案も短期間でおこなう必要がありました。結果的には提案がそのまま通った感じですね。

Interview05 サンゲツヴォーヌ×建築家 成瀬友梨さん×建築家 猪熊純さん
Photographer: Kenta Hasegawa
Photographer: Kenta Hasegawa

猪熊

依頼としては当初は「明るくしてほしい」ということだったんです。もともとの地下通路が、白い内装でしたが古いのと、蛍光灯も暗め、という感じだったからです。明るく見通せる空間になれば広々と魅力的になるだろう、という話でした。でも、「明るくするだけで本当に広く見えるだろうか?」と考えなおしたんです。白い通路にしてしまうと、空間が見通せてしまって却って狭い空間だと分かってしまいます。
そこで最終的には「見通せない空間」にしたんです。廊下の脇に書店がありますが、鏡を配置することで、鏡像が2・3箇所に映ります。ひとがだまされてくれて、奥行きが疑似的にあらわれる。鏡の中のほうが明るくみえるために、廊下自体は暗くしました。プレゼンのときに、「白っていう話じゃなかったっけ!?」という雰囲気に一瞬なりましたが(笑)、黒でいきましょうと英断していただきました。

Photographer: Kenta Hasegawa
Photographer: Kenta Hasegawa

成瀬

過去に増築しているので天井の高さも場所によってまちまちで、設備などの関係で天井付近に様々な凸凹がありました。白だとどうしても陰影が目立ち、凸凹を際立たせてしまいますが、黒だとほとんど目が行かなくなります。
天井にも鏡を配置しているので、写真では上下を間違えそうになるときがあります(笑)。

猪熊

当初は、「これだけ大きな鏡だと、衝突するんじゃないか」という懸念もありましたが、カーブミラーと同じで鏡像でひとが来るのが分かります。却って歩行速度が落ちなくなったんです。

Photographer: Kenta Hasegawa
Photographer: Kenta Hasegawa

牧尾

デザインのお仕事をしていて良かったと感じる瞬間を教えていただけますか?

猪熊

こういう仕事でなければ会えなかったひとや考え方と、建築やプロジェクトを通して深くかかわることができるのが、一番いいなとおもうことですね。空間づくりという意味ではプロだけれど、他の分野では素人なわけで、いま世界はこうなっているんだなと、仕事を通じて最も先端の話を聞くことができます。独立当初には想像していなかった楽しさがありますね。
予期せぬ出会い、そこから広がるまた次の興味という点で、この仕事に感謝しています。人生は予測不可能だっていうことがよく分かります。

成瀬

もちろん、いい空間ができたときに喜んでもらえるのも嬉しいですが、自分のなかのテーマとしては、「常識」にどう向かいあっていくか。自分も常識に囚われているし、世の中も常識にとらわれてるなあと思う場面が結構あって。
たとえば自分が高校生くらいのときって、シェアハウスなんて想像もしていなかったけれどいまはそれを設計しています(笑)。空間が追いついてくると新しい生活が可能になってきて、新しいひとの関係づくりが可能になってくるんですね。実務でやってみてわかってきたことですが、それってすごく面白いなと。
また、これまでに手がけた建築を見に来てくれて「参考にしてる」とか「考え方が変わった」といった感想をくださる方もいます。自分たちがやったことで、社会のなかのあるひとたちがほんのすこしでもポジティブな方向に変わる、というのはステキなことだと思います。

Photographer: Kenta Hasegawa
Photographer: Kenta Hasegawa
成瀬 友梨さん

PROFILE

建築家成瀬 友梨さん

愛知県出身。東京大学工学部建築学科卒業、同大学院修士課程修了、同大学院博士課程単位取得退学の後、2007年に成瀬・猪熊建築設計事務所共同設立。

猪熊 純さん

PROFILE

建築家猪熊 純さん

神奈川県出身。東京大学工学部建築学科卒業、同大学院修士課程修了の後、千葉学建築計画事務所を経て2007年に成瀬・猪熊建築設計事務所共同設立。

「シェアする場をつくること」をコンセプトに、社会情勢の変化にあわせた新しい住まい、オフィス、商業施設などを手がける。本コラムで紹介している以外にも、キュープラザ二子玉川、天川村南日裏定住促進住宅、坂の上テラス、株式会社デンソー名古屋オフィスなど多くの建築・内装設計やインスタレーションに携わっている。第15回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展 日本館 特別表彰、GOOD DESING AWARD 2015・グッドデザイン賞(りくカフェ本設)、日本建築学会作品選集 新人賞(LT城西)など受賞多数。
(プロフィールは記事掲載時(2018年8月)のものです)

聞き手

牧尾 晴喜

株式会社フレーズクレーズ 代表
一級建築士、博士(工学)
メルボルン工科大学大学院修了、メルボルン大学にて客員研究員
大阪市立大学非常勤講師、摂南大学非常勤講師
公益社団法人 日本インテリアデザイナー協会理事