COLUMN

Interview 06 サンゲツヴォーヌ ☓ インテリアデザイナー(UDS株式会社) 菓子麻奈美さん Interview 06 サンゲツヴォーヌ ☓ インテリアデザイナー(UDS株式会社) 菓子麻奈美さん

企画から運営まで見すえた
インテリアデザイン(第1話)

コートヤード・バイ・マリオット
東京ステーションと渋谷グランベルホテル

UDS株式会社で、
ホテル・オフィス・店舗のインテリアなど、
企画から設計までさまざまな角度から
プロジェクトに携っている菓子麻奈美さん。
ブランディングや運営面もふくめた
デザイン・空間づくりについて
お話をうかがいました。

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INTERVIEW

聞き手:牧尾さん(以下:牧尾)


まずは、インテリアデザイン監修をされた『コートヤード・バイ・マリオット東京ステーション』について。クリエイター、エディターといった住人をイメージした客室の世界観がとても具体的ですね。一般的な「エグゼクティブ」などの分類ではなく、「クリエイター」や「キュレーター」などの客室タイプから選べるようになっていて珍しいです(笑)。

菓子さん(以下:菓子)

ホテルでは非日常の空間をデザインしていきますが、ユーザー視点からみてみると落ち着けるかどうかというのも大きなポイントです。そこで、あまりに日常からかけ離れた空間ではなく、自分が憧れる人物像の部屋にちょっと行ってみる、くらいの設定でつくってみようと考えました。

牧尾

ライティングデスクやソファ、照明など、さまざまな要素で各客室の異なる世界観が表現されています。

菓子

柱・梁の位置など多少の違いはあるものの、設計施工としての効率の面から、基本的には同じような平面計画でつくられています。そのような空間のなかで、設定した人物像のライフスタイルや着ている服なんかも想定して、それぞれのインテリアを具体的につくりこんでいきました。
世界的にみれば、事業主やオーナーさんが目利きで好きなものを集めている、といったスタイルのホテルはあります。ただ、その場合には共用部なども含めてつくりこんでいく必要があり、経済的な負担も大きいんです。今回は、いろいろなひとが部屋に置いているものがあり、それが共用部にもすこし出ている、くらいのイメージで世界観を表現し、面白味と経済性を両立させています。

コートヤード・バイ・マリオット 東京ステーション
コートヤード・バイ・マリオット 東京ステーション
「世界を旅しネイチャーフォトを発表し続けるフォトグラファー」をイメージした客室
コートヤード・バイ・マリオット 東京ステーション
コートヤード・バイ・マリオット 東京ステーション
「IT・メディア系デジタルクリエイター」をイメージした客室

牧尾

ホテルのロビーもライブラリーバーになっていますね。

菓子

そうなんです。通常は、こういったライブラリーのしつらえをつくっても、小物までなかなかつくりこめないことが多いんです。ですが今回はクライアントさんもこちらの世界観にノッてくださったこともあり、小物もふえました。遊休品なんかも活用しながら(笑)。

コートヤード・バイ・マリオット 東京ステーションライブラリーバー
コートヤード・バイ・マリオット 東京ステーションライブラリーバー
アパルトマンへのゲストを招きいれる共用ラウンジをイメージしてつくられ、
海外から取り寄せたアートワークやビジュアルブックが並んでいる

牧尾

つぎに、『渋谷グランベルホテル』についてお聞かせください。こちらも『引き出しの部屋』、『ポスターの部屋』など、客室コンセプトがどれもとてもユニークです。『光るカーテンの部屋』についてはいかがでしたか?

菓子

天井高が通常の2倍、面積はツインタイプと同じで、それをすこしグレードの高いスイートルームとして売りたいという要件でした。よくある方法としては、ゴージャスなシャンデリアを吊るしたり、高さを活かした絵を飾る、といったところでしょうか。でも、それだけではなくて、部屋に入った瞬間に驚きがあって、ゲストの心を動かすものや、何か体験できるものが欲しかったんです。そこでいろいろと検討し、光るカーテンって見てみたいね、と。
じつはこの光るカーテン、デザイナーたちスタッフの手縫いでつくっています。布に切り込みをいれて立体的にワイヤーをしこみ、実際に吊るしてLED照明の重みで下がってくるのを再度調整して……と。皆、縫うのが上手になりましたね(笑)。

牧尾

こちらのデザインでは、YOY(ヨイ)の小野直紀さん、山本侑樹さんとコラボレーションされていますね。

菓子

はい、YOYさんはプロダクトから空間を、私たちは空間からプロダクトを考えるという双方向から進めて、客室空間をつくっていきました。
もともと、デザインホテルの先駆けとして“Next Shibuya”をコンセプトに、渋谷でオシャレに泊まれるような一歩先をいくデザインを目指していました。自分たちの頭だけで考えていると、一般的なホテルのインテリアデザインからどうしても抜け出しにくいので、誰かに入ってもらおう、と。ホテルのアートって壁に貼られているだけが多いんですが、プロダクトや家具として使えたり、体験として心に残るものについて考えていて、YOYさんとのコラボレーションの話が出てきたんです。
UDSでは、外部パートナーとも積極的に組んで、いい緊張感のなかでお仕事を進めています。普段からアンテナを広げておいて、プロジェクトを通して会いたいひとに会える口実にもなっていますね。

渋谷グランベルホテル『引き出しの部屋』 Photo:Nacasa & Partners
渋谷グランベルホテル『引き出しの部屋』
Photo:Nacasa & Partners
渋谷グランベルホテル『光るカーテンの部屋』 Photo:Nacasa & Partners
渋谷グランベルホテル『光るカーテンの部屋』
Photo:Nacasa & Partners
菓子麻奈美さん

PROFILE

インテリアデザイナー(UDS株式会社)菓子麻奈美さん

1983年生まれ、東京都出身。東京芸術大学大学院美術研究科建築専攻修了。長谷川逸子・建築計画工房にて建築設計の仕事に携わり、中国無錫の大規模開発プロジェクトの高級ヴィラ、商業施設、ランドスケープなどを手がける。2011年より、株式会社都市デザインシステム(現UDS株式会社)にて、ホテル・オフィス・店舗のインテリアや、家具のデザイン、ブランディング、VI計画と企画から設計までさまざまな角度からプロジェクトに携っている。
(プロフィールは記事掲載時(2018年10月)のものです)

聞き手

牧尾晴喜

株式会社フレーズクレーズ 代表
一級建築士、博士(工学)
メルボルン工科大学大学院修了、メルボルン大学にて客員研究員
大阪市立大学非常勤講師、摂南大学非常勤講師
公益社団法人 日本インテリアデザイナー協会理事