COLUMN

Interview 03 サンゲツヴォーヌ ☓ 建築家田根剛さん Interview 03 サンゲツヴォーヌ ☓ 建築家 田根剛さん

古来と未来をつなぐデザイン(第1話)

『エストニア国立博物館』での記憶と建築

26歳で国際コンペに優勝し、
10年の歳月をかけて2016年にオープンした
『エストニア国立博物館』など、
パリを拠点に世界中でさまざまな建築を
手がける田根剛さんに、
デザインのことや空間づくりにおけるテキスタイルの可能性などをうかがいました。

Page 1 of 3

INTERVIEW

聞き手:牧尾さん(以下:牧尾)


2016年10月に竣工した『エストニア国立博物館』のお話から聞かせてください。旧ソ連軍基地の滑走路を延長させつつ徐々に傾斜を上げて博物館の屋根へとつなぐという大胆な建築です。コンペ受賞当初から、過去の歴史・記憶がいまの建築物につながっていくというコンセプトや外観が大きな話題となっていました。内部空間についてはまだそれほど紹介されていないかと思いますので、まずはそちらから聞かせていただけますか?

田根さん(以下:田根)

旧軍用滑走路から延長してきたコンクリートの床と天井という2枚の板の間には外壁のガラスがあり、このガラスには民族衣装をモチーフにしたパターンを使っています。さまざまな時代を経験しながら、常に民族としての記憶をとどめてきた民族衣装、それを外壁のモチーフにしました。これはナショナルミュージアムとは何かを考えた結果です。民族の記憶に包まれるような柔らかなイメージの内部空間からエストニアの風景をみられるようにしようと考えました。
そのようなメッセージを主に来場者の視点から考えていたんですが、ミュージアムで働いているスタッフの方から、夜にライトアップされている空間のなかにいると、とても幸せな気持ちになると言っていただいたんです。スタッフの方からも実際にそんなふうに言ってもらえて、とても嬉しかったですね。

民族衣装をモチーフにしたガラス
Photo: ©Tõnu Tunnel / image courtesy of DGT ARCHITECTS

牧尾

包み込まれるような柔らかな光、民族のパターン、遠くの森の風景や雪景色、そういったものが内側から外につながっていってエストニアの心の風景となるのはステキですね。

田根

ありがとうございます。もうひとつは、展示の方法です。滑走路側からみると、氷河期から現代のエストニアまでの展示物があります。一般的な展示物は、歴史を過去から順に伝えがちですが、今の時代から過去へと遡って見ていくと分かりやすく伝わることもあるんです。ここでの展示物としても、現代のエストニアから始まり、その次にはソ連時代から解放された「自由」を展示するという思想的な展示内容です。具体的なものだけではなく、さまざまな物語をつないでいくように氷河期まで続いていきます。来場者は展示物をたどりながら、そういったストーリーとともに時代や記憶をたどっていくという展示構成となっています。
また、そういう民族的なことを語りながらも、最新のデジタル技術も導入しているのがエストニアらしい。展示物の横のキャプションは電子パネルで、チケットの電子カードをかざすと現在は4か国語に翻訳され、最大50か国語までプログラミングで読めるようになっています。そうやって来場者は自分の国の言葉でストーリーを見ていくわけですが、どのようなひとがどのように見ていったかというデータも蓄積されていき、展示構成へのフィードバックが得られるんです。

エストニア国立博物館
Photo: ©Tiit Sild / image courtesy of DGT ARCHITECTS
エストニア国立博物館
Photo: ©Tõnu Tunnel / image courtesy of DGT ARCHITECTS

牧尾

オープンから1年が経ちますが、実際の利用の様子なども教えていただけますか。

田根

エントランス回りの一体的なパブリックスペースでは、ライブミュージックや民族的な内容のシネマ上映など、その場で今しか体験できないものをやっています。単に建築として存在するだけではなく、オープンしたことによって空間がいきいきと使われていますね。その場でしか体験できないイベントにひとびとが参加していく、というのも記憶の一つの伝え方ではないかと、そういったことを考えています。

パブリックスペース
Photo: ©Tõnu Tunnel / image courtesy of DGT ARCHITECTS
田根剛さん
Photo: Yoshiaki Tsutsui

PROFILE

建築家田根剛さん

1979年東京生まれ。
ATELIER TSUYOSHI TANE ARCHITECTSを設立、フランス・パリを拠点に活動。2006年にエストニア国立博物館の国際設計競技に優勝し、10年の歳月をかけて2016年秋に開館。また2012年の新国立競技場基本構想国際デザイン競技では『古墳スタジアム』がファイナリストに選ばれるなど国際的な注目を集める。
場所の記憶から建築をつくる「Archaeology of the Future」をコンセプトに、現在ヨーロッパと日本を中心に世界各地で多数のプロジェクトが進行中。主な作品に『エストニア国立博物館』(2016年)、『A House for Oiso』(2015年)、『とらやパリ』(2015年)、『LIGHT is TIME 』(2014年)など。フランス文化庁新進建築家賞、フランス国外建築賞グランプリ、ミース・ファン・デル・ローエ欧州賞2017ノミネート、第67回芸術選奨文部科学大臣新人賞など多数受賞。
2012年よりコロンビア大学GSAPPで教鞭をとる。
URL http://at-ta.fr
(プロフィールは記事掲載時(2018年3月)のものです)

聞き手

牧尾晴喜

株式会社フレーズクレーズ 代表
一級建築士、博士(工学)
メルボルン工科大学大学院修了、メルボルン大学にて客員研究員
大阪市立大学非常勤講師、摂南大学非常勤講師
公益社団法人 日本インテリアデザイナー協会理事